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    いぬねこぐらし|國森由美子のキャッツアイ通信「世のねこ」

    この連載では、「世の中」の諸地域の猫事情をご紹介! 猫や動物が大好きな方、猫と暮らしている方はぜひご覧ください。
    筆者と愛猫ミルテのオランダねこ暮らしも毎月お届けします♪

    記事一覧

    ルイ・クペールスの猫、インペリア(その2)

    ルイ・クペールスの猫、インペリア(その2)

    (前回よりのつづきです)
    インペリアとよく似た母猫は、なんとも悲しいことに、召使いが世話をしていたにもかかわらず、わたしたちが旅行に出ている間に邸を出ていってしまった。いったい誰が猫のたましいを分析できようか?
    「猫というものは謎めいた生き物だ」と友人のクエリドは言っていたが、そのとおりだ……
    しかし、人というものはあらゆる悲しみを乗り越えるものだからして、母猫に去られた後、失意のわたしがインペリアという誇らしい名のその娘になぐさめを求め、これをいとおしむようになったとしても、しかたがあるまい。
    さらに、隣のイタリア領事の黒猫も、母猫の代わりに実の娘インペリアと夾竹桃とマグノリア(木蓮)の間で契(ちぎ)りを結ぶということがあってもよかろう。
    猫の掟(おきて)やモラルに反すると少しも後ろ指をさされることなく。天空に月がかかり、蒸し暑い五月の夜が密かな香りとつのる願いとに膨らめば、この数週間のうちにきっとそうなるにちがいない。

    読者諸君、諸君のモラルと猫のそれとを比べるなかれ。
    いかなるご近所猫もインペリアに石を投げつけることはなく、いかなる猫の新聞記者もその父を「サテュロス」と蔑(さげす)んで書き立てることはないのだ。

    文中にあるクペールス夫人をモデルに友人の彫刻家が創作した大理石のレリーフ

    朝、わたしが自分の部屋へ入り、書斎机の前に座ると、
    こんなことが起こることもある。
    わたしは書き、じっと考え、それからふと頭をあげる。すると…
    そこに突然インペリアの姿がある…
    インペリアは、もうかれこれ三十分も机の上に置いてある小物の間に座っていて、そのスフィンクスさながらの姿は、アンティークの象牙の聖母像や友人の彫刻家が作ってくれた大理石製のわが妻のレリーフの間で、すっかりエジプトの置きものになりきっていたのだ。
    わたしがようやく気づいたところで、インペリアは喉をごろごろ鳴らし、
    ヒゲの間でうふふと笑う。そして言う。

    「そう、やっと気づいたの?こんなに長いことかかるなんて!
    わたし、あなたが部屋に入って来た時からもうここにいたのよ。
    気がついてくださるまでどのくらいかかるか、一度知りたかったの。
    まったく時間のかかる人!わたしのだいじなご主人さまそして詩人さん(*訳者注)、あなたの禿げあがったおでこの中って、わたしにちっとも気づかないほど、そんなに考え事でいっぱいなの?
    わたしね、わざと動かずにいたのよ、だって、あんまりおもしろかったから。
    ええ、いいわよ、続きを書いて…まあ、そんな風に書かなくてはならないの?わたしのこと、書いたりもしているのね…名前が見えるわ、「インペリア」って。
    そんな、わたしのしぐさなんて、みなさん、ほんとうにおもしろいと思うのかしら?
    それより、わたしを構ってくれればいいのに…ヒモつき糸巻きで遊んで…しないの?
    …ああ、わたしももう遊ぶ気失せちゃった…体が重くて、だるいの…いったい何なのかしら?
    こんなにまるくなって、まるで小包でも抱えているような歩きかただし…
    わたし、きっと重い病気にかかっているのだわ…なんだかわからないのだけれど…
    いったい、何なのかしら?ねえ、あなたにわかる?
    これ、結婚後まもなくなの、イタリア領事の…ほら、お隣りの大きな黒猫のことよ?
    …大きくて強い、美しい猫よ、夫は。でも、とても荒っぽいの…
    フーッとうなって、足げにしたり、しっぽでぶったり…
    ああ、あなたに、夫のすることすべては言えないわ…とても乱暴だけれど、それでもわたし、愛しているの…
    でもね、今はもう、会いたくないの。いくらあたりをうろうろしていようとも…会うのがこわいの…
    もし、やってきたら、わたしを膝に乗せて、そしてひどい暴力から守ってちょうだい…優しくしてほしいの、とても優しく…
    聞いてるの?もう、なにを書き続けてるのよ!
    それが、そうして書いてるのが、永遠に書き続けてるのが、退屈だっていうのに…」

    インペリアはこんな感じでいたのかも? 「インペリア」をイタリアで執筆した際に使っていた机

    インペリアは伸びをして、大理石のレリーフと象牙の聖母像の間をそっとすりぬけ、それから、かわいらしい手でわたしのペンにちょんと触れる…
    「こら、このいたずら猫め!」と、わたしはたしなめる。

    すると、インペリアはわたしの肩に飛び乗り、襟のカラーのまわりをうろうろし、首のまわりで毛皮の襟巻ごっこをし、頬に頭を寄せ、喉を鳴らす…
    わたしは書き続け、インペリアはそのままじっと動かない。

    インペリアは、実は鬱ぎみなのだ。
    いや、自分にいったいなにが起きているのかがわからないのだ。インペリアにとって、これは初めての経験なのだ。
    そして、かすかに、とても柔らかく、ほとんど悲しげに、ただ喉を鳴らしつつ、わたしの頬に頭を擦りつけている。
    かと思うと、濡れたテラコッタの鼻でわたしにいきなりキスをし、そして言う。

    「あなたって、書きものばかりでつまらない人ね…わたし、外へ行ってくるわ ── ミャウ!」

    わたしはインペリアを外へ出してやる。(以下、次回に続きます。)

    *訳者注:クペールスは詩人でもあった。

    今月のミルテ「筆者、7月は日本に帰国中です。いい猫(こ)でおるすばんできるかな?」

    「夏休みも猫道あるのみ、おかまいなくー」

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